恋路ヶ浜LOVEストーリー

伊良湖岬の先端にある雄大な浜辺には、万葉の時代から恋にまつわる様々な伝説があった。
その浜はいつしか「恋路ヶ浜」と呼ばれるようになった。
現代の恋路ヶ浜に舞い降りた、ある男女の縁結びの物語・・・

第19話「引越し~入籍 ~ Shizuka ~」

6月に田原市へ行った時に峻平くんとしっかり話し合い、出会ってちょうど1年の7月28日に入籍することが決まり、
その前の26日が引越しの日となった。
大阪の親しい友達からは「ほんまに、こういう出会いがあるねんなあ」と驚かれ、
結婚を祝福してくれると同時に、田原市へ嫁ぐことを寂しがってくれた。
両親は「山も海もあって、食べ物は美味しいところやし、峻平くんとなら大丈夫やね」と前向きに受けとめてくれている。

いざ、引越しの日。

大きな荷物を送った後、峻平くんが車で大阪までお迎えに来てくれた。
私が飼っている犬のケンケンとウーパールーパーの「うーちゃん」も乗って、一緒に田原へ嫁ぐ気持ち。
実家に姉家族や姉夫婦が集まってくれて、みんなで夕食を食べてから、出発となった。
今までは峻平くんと月に一度くらいしか会えず、これからずっと一緒にいられるうれしさが先行していたけれど、
みんなが駐車場まで来て見送ってくれる時に、「大阪を離れるんや」という実感が急に湧いてきた。
きゅんと寂しさを感じる。
色んな感情で胸がいっぱいになりながら、みんなに手を振った。
車の加速とともに、実家から離れていく。
見慣れた風景からもだんだんと離れていく。
パートナーとなる峻平くんと、大阪から連れていくケンケンとうーちゃん。
旅の始まりのようなシチュエーション。
人生の新しい旅も始まるんやな、と思った。

深夜に愛知に着き、新しい家にびくびくしているケンケンと、
動じないのか感じてないのかわからない、いつもと同じ表情のうーちゃんの水槽を整え、眠りについた。

夜が明けて、セミの大合唱で目が覚めた。強い、夏の日射し。田原にいるんやな!
峻平くんはHappinessあつみの研修期間が終わった後も、大家さんのはからいでシェアハウスに住ませてもらっている。
体験農園としての土地や家を探している最中なので、決まるまではこの部屋で暮らす。
今まではお客さん気分で訪ねていたこの場所に、これからは住むんやなぁ。
一緒に家を探して家具をそろえてという新婚生活のスタートではないけれど、二人が一緒にいられるだけで幸せだと思った。

引っ越して翌々日の28日。入籍の日。
番組での出会いから1年。まさか自分が本当に田原市に嫁ぐなんてびっくりだ。
1年前、番組のバスで田原市に入った時に「ここに嫁ぐかもしらんねんなあ」となんとなく思ったことを思い出す。
峻平くんに会う一回一回はとても貴重で大切な時間だったけど、
1年が過ぎてしまうと、あっという間に駆け抜けてきたような気もする。

婚姻届は、先月会った伊良湖の粕谷夫妻と時間を合わせて田原市役所に提出することになっていた。
大阪にお迎えに来てくれる前に峻平くんがすでに書き込んでいて、
自分が記入する時はもっとドキドキするかと思っていたけど、意外とさらりと書けた。

イチョウ田原市も誘致活動をしたお見合い番組で出会っての結婚のため、
事前に峻平くんたちが市役所に連絡を入れてあり、行ってみると、複数の新聞記者さんたちがいた。
色々質問されたり写真を撮られたり、何を聞かれるのかと少し緊張した。

その後で二人で婚姻届を提出!
市長さんから直々に観葉植物をいただいたり、たくさんの人からお祝いの言葉をかけてもらったり、
すごくうれしかった。

日原いずみ

日原いずみ

1973年2月4日、愛知県渥美町(現 田原市)生まれ
早稲田大学卒業後、テレビ番組のAD、現代美術作家助手などを経て、
処女小説が講談社「群像」新人文学賞で最終候補作となったのを機に執筆活動を中心としている。
著書に『チョコレート色のほおずき』(藤村昌代名義:作品社)、『赤土に咲くダリア』(ポプラ社)がある。

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