恋路ヶ浜LOVEストーリー

伊良湖岬の先端にある雄大な浜辺には、万葉の時代から恋にまつわる様々な伝説があった。
その浜はいつしか「恋路ヶ浜」と呼ばれるようになった。
現代の恋路ヶ浜に舞い降りた、ある男女の縁結びの物語・・・

第14話「菜の花まつり ~ Shunpei ~」

11月は東京で、12月に田原、1月に大阪で会い、2月は菜の花まつりに合わせて志寿香が田原市に来てくれた。

田原市は菜の花をあちこちに植えていて、菜の花エコプロジェクトなどに取り組んだり、
菜の花まつりは毎年、1月中頃から3月末まで行われているそうだ。
まだまだ寒い2月なのに、「菜の花?」と二人とも半信半疑だったけれど、
伊良湖のメイン会場に着くまでの間にも、半島のあちこちで黄色に咲き誇る菜の花畑を見ることができた。 
「そういえば、最初のお見合い番組の時も、サンテパルクに菜の花をあしらったのぼりがたくさん立ってたなあ」
志寿香が思い出したように言う。
あれから半年以上経ったなんて、うそみたいだ。

伊良湖のメイン会場に着くと、今まで見た畑の何倍もの広さのスペースに菜の花がたくさん咲いていた。

菜の花まつり

外の空気は冷たさの中にも春を感じさせるやわらかさがあって、
ふんわりと菜の花の香りが漂っている。
「昔フラワーパークがあった跡地だって、陽三さんが言ってたよ」
かつて南国ムードを演出しようとした椰子の木も何本か見える。
菜の花の開花時期は年によって違うようだけれど、今日はちょうど見頃と言えるくらい、
黄色い菜の花畑が広がっている。
菜の花畑の間を歩いている人たちが、一面の黄色の中にちらちら見えて、
まるで菜の花の海にいるような気持ちになる。
青い海水浴場や、白いゲレンデを連想させるくらい、
こんなに広々と菜の花が広がっている風景を初めて見た。
「きれいやなぁ。めっちゃかわいい」
志寿香も喜んでいる。
花に顔を近づけて香りを楽しんだり、写真を撮ったり・・・
面と向かって言うのは恥ずかしいし、わざとらしいから言葉を飲み込んだけど、
志寿香は菜の花に似てると思った。
可憐でかわいらしくて、見ていると元気になれる。

花々の間をゆっくりぐるっと回った後は、屋台の方へ向かった。
菜の花コロッケや菜の花豚汁、菜の花おにぎり、大あさり半平太という練りもの、
菜の花ジェラートや菜の花シフォンケーキなどなど並んでいる。
ぼくたちは色々と二人で一つ買って、味見して回った。
「何食べても美味しいなぁ」
「菜の花を見ながら食べるのもいいね」
写真を撮るカップルや親子連れなど、みんなニコニコしていて、微笑ましい。
ぼくたちも菜の花をバックに写真を撮ってもらった。

楽しい気持ち、美味しい気持ちを車に乗せて、この後は、赤羽根の太平洋ロングビーチへ向かうことにした。
渥美半島は、太平洋側や三河湾側など、場所によって海の表情も色も違うし、
地元の人の話によると、住民の気質や文化にも様々な違いがあるようだ。
最近は、自然や海を求めて移住してくる人も増えているらしい。

ロングビーチ

国道から曲がり、背の高い椰子の木が左右に立つ道をロングビーチへ向かって下りていくと、
雄大な太平洋が目の前に広がった。
「うわあ、すごいなあ~」
菜の花畑のやさしい黄色の風景から一転、迫力のある青の世界。
冬空が広く大きく澄み渡り、その下に大きな海が広がっている。
ゆっくりと海岸線を車で走ると、ウェットスーツを着て海に入っているサーファーも何人かいた。
車を停めて浜辺に降り立ち、力強い海を感じる。

菜の花畑はほのぼのぽかぽかしていたが、さすがに寒かったので、
早々に車に戻り、近くのカフェでコーヒーを飲んだ。
友達に教えてもらった、海を求めて移住してきた夫婦がやっているカフェ。
聞いていた通りのおしゃれなお店。
「昔からの渥美半島を感じられる場所やお店もいいし、新しいところもいいね」

まだまだ知らない渥美半島を、志寿香と一緒に知っていけたらいいなと思った。

日原いずみ

日原いずみ

1973年2月4日、愛知県渥美町(現 田原市)生まれ
早稲田大学卒業後、テレビ番組のAD、現代美術作家助手などを経て、
処女小説が講談社「群像」新人文学賞で最終候補作となったのを機に執筆活動を中心としている。
著書に『チョコレート色のほおずき』(藤村昌代名義:作品社)、『赤土に咲くダリア』(ポプラ社)がある。

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